妖峰戦記-宝永の乱-【第二章】

 

幕府・妖派から追われる身となった影狼は、南国メランからやって来た親子と旅をすることに。しかしそこへ、妖派の見えざる追手が迫る――

歴史ロマンと異能バトルの和風ダークファンタジー第二章!

第12話:赤髪の将

 右頬に痛烈な一撃を浴びた來は、囲いの兵を突き破り、外にまで吹き飛ばされていた。 幕府の兵の間に動揺が広がる。 完璧だったはずの來の守りが、妖術も使わない少年に打ち破られたのだ。「來!」一番動揺しているのは、梅崎であった。「……貴様!」 怒…

第13話:妖派のすゝめ

 通路の両側に置かれたかがり火が、石張りの床を照らしている。 影狼が向かっているのは、妖派を束ねる者の部屋。御屋形様――たった今先導している男はそう呼んでいた。 黒塗りの大きな扉の前まで来ると、男は立ち止まった。 ここがその部屋らしい。宿敵…

第14話:叛逆の狼煙

 真夜中の峠道。 道に沿って砦のような建物が並んでいる。その背後の林に、うごめく影があった。 影は木々の間をゆっくりと進み、やや開けた場所へと抜け出る。かすかな星の光が浮かび上がらせたのは、真っ黒な忍装束。 影の主は月光の忍――山梔子《くち…

第15話:上野国へ

 追われる身ではなくなったが、眠れない夜はまだ続いている。影狼の寝相は悪くなる一方であった。 柘榴の与えた選択肢が影狼の心に葛藤を生み出していたのだ。 鴉天狗の一人として、仲間と運命を共にするのも潔い生き方だろう。しかし救える命を救わないの…

第16話:情けの武士

 柘榴は信濃出立の支度を整え、廊下を急ぎ足で進んでいた。 先発の部隊はもう到着している頃合いだ。信濃の大名は信頼のおける人物であるから特に心配は要らないが、あまり遅れると面子が立たない。 焦りを感じながら角を曲がろうとしたとき、柘榴は老人と…

第17話:羽貫衆

 初めて羽貫衆の名を聞いたのは、メランの親子と旅をしていた時の事だ。 妖派の追手から逃れる際に、頼りになる知人として紹介してもらった人たち。旅の途中ではぐれてしまったためにお流れとなってしまったが、なんという巡りあわせだろうか。 伊織と言葉…

第18話:奇襲

 どれぐらい進んだだろうか。 影狼たちは先頭集団に付き従って、雑木林の中を歩いていた。「ちきしょ~、よりにもよって、なんでこんな道を選ぶんだ?」 あれほど張り切っていた栄作が、ぶつぶつと愚痴をこぼしている。 この集団に追い付いたのは栄作が最…

第19話:裏切り者

 邪気の騒ぐ、満月の夜――その男は死神の如く現れた。 月光の忍装束の男。それが我が家にやって来た意味を、影狼はまだ知らなかった。 男の去った後に残ったものを見て、初めて気づいたのだ。月光が、限界を迎えた侵蝕人を間引く役目を担っていたことを―…

第20話:間合い侍

 犬童の刀を見て、柳斎は強烈な違和感を覚えた。 墨のような――というような次元ではない。まるでそこだけ空間が切り取られたような、現実離れした黒。 ―――それに、この感じは……「あと数年早く生まれていれば自分も殲鬼隊になれたと、一度ぐらいは思…

第21話:決別

 武蔵坊はゆったりと戦場を見渡した。 彼の放った一矢で、幕府軍の気勢は削がれてしまったようだった。 増援が来たとはいえ、兵力はまだ拮抗している。鴉天狗の精強さを思えば、どちらが不利かは明らかであった。幕府軍はその現実を突きつけられたのである…

第22話:心の拠り所

 乾燥した林はよく燃える。初めは地面を這っていた炎はやがて樹々に絡みつき、熱風と黒煙を吐きながら燃え広がっていった。 武蔵坊は己の放った炎を見つめて後ずさりした。まさかこれほど燃え広がるとは思わなかったのだろう。炎は武蔵坊の意思とは関係なく…

第二章あらすじ・登場人物

 妖派の追手に捕らわれた影狼は、妖派筆頭の柘榴と対面する。鴉天狗の救済を条件として、影狼は帰順を勧められ、葛藤に苦しみながらもこれを承諾した。鵺丸と再会した武蔵坊は、幕府を打ち破る計画があることを知る。迷いはあったが、侵蝕人を守るためならば…