妖峰戦記-宝永の乱-【第五章】

 

鴉天狗が越後に亡命した矢先――越後大名が急死した。それから間もなくして越後国は後継者を巡り内乱状態となる。幕府軍を退けるほどの武力を持つ鴉天狗が、この争いに巻き込まれないはずがなかった。彼らの運命やいかに――

そして羽貫衆の一員となった影狼もまた、妖派との直接対決に向けて動き出す。

歴史ロマンと異能バトルの和風ダークファンタジー

第二部へと繋がる波乱の第五章!

第48話:持ち込まれた火種

 独立を宣言して以来、越後国は朝幕の戦禍に呑まれることなく平穏を保ち続けてきた。 ただ、それは領主の吉良に野心がなかったからではない。皇国も幕府も一国だけで立ち向かうにはあまりにも強大で、手出しができなかったからだ。天下取りの戦に加わるには…

第49話:勃発!曹山の乱

 評議後、色部は腹心に守られながら、城内にある屋敷へ向かっていた。 ここ数日は別荘で寝泊まりしていたのだが、鴉天狗との接触を果たした以上、もうそこに用はない。調略の局面は過ぎたのだ。次になにかあるとすれば戦。ならば、危急の際に味方と連携が取…

第50話:笹隠れの才蔵

 善見山城がいつ頃築かれたか、はっきりしたことは分かっていない。しかし今日のような巨大な城郭となったのは、長尾影虎がこの地を治めていた時代だと言われている。影虎は越後の虎と称された戦国時代の武将で、甲斐の亀――武田《たけだ》陰玄《いんげん》…

第51話:酒吞の片桐

 色部屋敷の庭では、突如現れた獅子髭の男が本庄信繁と睨みあっていた。 敷地全体に燃え広がった炎の勢いはいまだ衰えず、辺りは焦げくさい臭気で覆われている。そんな中で、獅子髭の男はグイッと酒をあおり、また一つしゃっくりをした。とろんとした目が、…

第55話:荒ぶる会合

 会合の間中、影狼は柘榴のことが気になって仕方がなかった。 柘榴はまだ一言も発言がない。他国も大名以外が直接話に加わることはほぼなかったから、それが普通なのだろう。しかし柘榴がそこにいるというだけで、影狼は心臓を握られているような気分になる…

第56話:風流の術士

「なっ……!?」 驚きの声を上げたのは、笹暮だった。 それからすぐに、広間全体が蜂の巣をつついたような騒ぎになる。「言われてみれば確かに……あの茶色い髪は九鬼の特徴だ」「九鬼だと!? なぜ鴉天狗にそんな者が?」 ただ驚いているだけならばいい…

第57話:海猫の秘密

 羽貫衆の屋敷に帰ってきた次の日、影狼はぐっすりと昼過ぎまで寝ていた。 目が覚めた後もなかなか起き上がれず、頭から布団をかぶってゴロゴロしていた。 ひどく重圧を感じる会合だった。あれを一言で表すならば、魔窟だ。隙を突こうと目を光らせる狡猾な…

第58話:死の招き猫

 ホタルを見ていた。 風の穏やかな初夏の夜。影狼は家をこっそり抜け出し、この場所まで来ていた。暗闇の中をふわふわと漂うホタルの光は、空からこぼれ落ちた星屑のようで――「綺麗……」 思わず、そんな言葉が口からこぼれ出た。「だろ?」星のように目…

第59話:生きた証

 翌日、昼食を取ったあとで、さっそく影狼と幸成はノブナガを探しに出た。 侵蝕人の長屋とその周辺、よくノブナガの世話をしていたという家……ノブナガが寄りそうな所を手当たり次第に当たってみたのだが、ここまでで有力な情報はない。 どうも、五日ほど…

第60話:切り拓く者たち

 宝永二十七年も終わりが近付き、日ノ本はすでに本格的な冬を迎えていた。五街道の一つに数えられる東海道《とうかいどう》も、この日は人通りが少なく、松並木が風に揺れる音が時々虚しく響くばかりである。そんな中を、大名行列さながらに進み行く一団があ…

第五章あらすじ・登場人物

 鴉天狗が越後に亡命した矢先――大名義秋が急死した。それから間もなくして越後国は後継者を巡り内乱状態となる。当初は元殲鬼隊の豪傑二人を擁する義氏派が優勢だったが、鴉天狗が義弘派として参戦したことで形勢逆転。義弘派は越後の本城の奪取に成功し、…

第52話:鴉天狗五剣

 妖刀――血舞酔を中心にして、巨大なドス黒い血の紋様が宙に浮かんだ。 信繁の体が紋様の中心へと引かれ始めたのは、その直後のことだった。正確には、体ではなく刀と甲冑が引かれている。脇差も、手で押さえていなければ持って行かれそうだ。強烈な磁力が…