第35話:ささやかな反抗
甲斐国南部の町――安岐《あき》。 戦国時代の有力大名が拠点を置いたこともあるこの地は、今や奇兵の本拠地である。崖と川に挟まれた丘陵には奇兵の大半が結集する髑髏ヶ崎館《どくろがさきやかた》があり、崖の下には湖に面して妖研究施設が置かれていた…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第36話:逃走開始
髑髏ヶ崎館の砦は段差と仕切りによって四つの層に分けることができる。 一段目は防衛の要で、普段は甲斐大名が手配した正規の兵が警備に当たっている。二段目は三の丸と呼ばれ、一般奇兵の居住区となっている。二の丸にあたる三段目は、伊織をはじめとする…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第37話:起死回生
大胆にも、影狼は見晴らしの良い通路のど真ん中を突き進んでいた。「お、おい……あいつが影狼だ! 追え!」 道端で待機していた数人の奇兵がそれに気付き、後を追う。 少し前までの影狼だったら、小道に回り込んで彼らを振り切ろうとしただろう。それ以…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第38話:決戦!安岐ノ橋
安岐ノ橋は古くから鬼の伝説が数多く残されている有名な橋である。 殲鬼隊の登場によって、ご当地名物の鬼の安否が危ぶまれるところだが、鬼の伝説はまだ終わってはいないようだった。 橋を渡った影狼たちの前に現れたのは、心を鬼にした男。「伊織……!…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第39話:いつの日か――
奇兵が誕生する前、伊織にはなにもなかった。 宝永山直下の米堕《よねだ》村で生まれた伊織は、妖の難を逃れるために幼い頃から移住生活を強いられてきた。逃げた先では追い返され、どの村へ行ってもそれは繰り返された。宝永の大噴火から十年以上が経って…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第40話:居場所を求めて
影狼たちが人気のある町に辿り着いたのは、翌日の夕暮れ時のことだった。 髑髏ヶ崎館を抜ける時はお金しか持ち出せなかったが、町に一つだけのそば屋を見つけて、影狼たちはようやくまともな食事にありつけた。 夜が明けると、再び歩き詰めの一日が始まっ…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第41話:原点
再会を喜び合うのもそこそこに、影狼たちは宴会場のような部屋に迎え入れられた。 長い食卓の上には、太郎次郎のこしらえた料理がズラリと並んでいる。ヒュウの店で食べたばかりだったが、甘い肉の香りが影狼と來の食欲をそそった。「いやあ、ビックリした…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第42話:招かれざる
翌朝、羽貫衆の一行はヒューゴの行き先を聞き出し、南西へ向けて出発した。 行程の半分ほどは川沿いで、舟を使うことができた。やたら荷物の多い栄作と歩くのが嫌いな來にとっては、特にありがたいことである。 昼過ぎになると、舟の進む先に奥武蔵と呼ば…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第43話:魔境の村
羽貫衆三人に來と影狼を加えた一行は、爺の先導に従って山道を急いでいた。 ヒューゴには今、護衛が付いていない――思いがけずもたらされた情報によって、ヒュウは栄作たちの協力を仰がざるを得なくなったのである。「今回ばかりは、お前の図々しさが役に…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第44話:幕府の犬
命からがら帰ってきたヒューゴを待っていたのは、不機嫌に顔をしかめた息子だった。「父さん。もうやめようよ、こんな危険な仕事」「ダメダヨ。ワガママ言ってヤメたら、幕府からの信用がなくなって、二度と妖の調査をヤラセテもらえなくナル」「いいじゃん…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第45話:山の主
土の中から這い出てきたのは、全身に蔓が巻きついた骸骨。 五十体はいるだろうか――いずれもが槍や刀で武装している。「なんてこった……こいつら全員、凩村の人なのか?」「そのようだな。しかもどういうわけか、オレたちがここに来るのが分かっていたよ…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】
第46話:記憶の化身
柳斎、栄作、太郎次郎――彼らにはどうしても忘れられない、共通した記憶があった。 彼らがまだ国士館の門弟だった、ある日のこと。 柳斎たちは道場に集まって、いつものように他の門弟たちと稽古をしていた。「勝負だ栄作!」 壁際でぐったりしている栄…
妖峰戦記-宝永の乱-【第四章】