第二章 決別

 妖派の追手に捕らわれた影狼は、妖派筆頭の柘榴と対面する。鴉天狗の救済を条件として、影狼は帰順を勧められ、葛藤に苦しみながらもこれを承諾した。鵺丸と再会した武蔵坊は、幕府を打ち破る計画があることを知る。迷いはあったが、侵蝕人を守るためならばと再び鴉天狗に加わることを誓った。
 それから数日後、幕府は鴉天狗の所在を突き止め、討伐軍を差し向けた。影狼はこれを止めるべく戦地へと赴くが、受け入れてもらえず幕府軍は攻撃を開始する。しかし鴉天狗は幕府軍を大いに欺き、奇襲攻撃を仕掛けた。巻き添えとなった影狼は、傭兵の羽貫衆に守られながらなんとかこの苦難を乗り切る。幕府軍も勢いを取り戻し、退却を始めた鴉天狗を追撃する。しかしそこへ現れた思わぬ敵が、これを阻んだ。影狼と逃亡生活を共にした武蔵坊である。影狼は投降を呼びかけたが、武蔵坊はこれを拒否。妖派に丸めこまれた影狼に対し、怒りをあらわにした。遺恨を残したまま、武蔵坊は鴉天狗ともども北へと消えていった。

 

☆登場人物・用語
【新登場人物】
柘榴ざくろ
 妖派の主将。幕府四天王。赤くちぢれた髪が特徴。
伊織いおり
 奇兵。妖派に馴染めない影狼が唯一心を許した青年。
羽貫はぬき柳斎りゅうさい
 羽貫衆の名ばかり頭領。寡黙な長身の男。長大な刀を扱う。
柏木かしわぎ栄作えいさく
 羽貫衆の実質上の頭領。寡黙な柳斎とは対照的な性格。鉄砲を扱う。
はやし太郎次郎たろうじろう
 羽貫衆の一人。モウグリ人の血を引く巨漢。幅広の環刀を扱う。
笹暮ささくれ友晴ともはる
 幕府四天王。武蔵国国主。元殲鬼隊。鴉天狗追討の指揮をとる。羽貫衆と交わりがある。
来方こしかたひびき
 甲斐国大名。柘榴の出世に一役買った好々爺。
十六夜いざよい
 鴉天狗に従う忍衆――月光の頭領。
犬童いんどう頼清よりきよ
 鴉天狗の幹部。元殲鬼隊で、妖刀を扱う。

【新用語】
幕府四天王ばくふしてんのう
 幕臣の中でも特に優れた人物四人を指す。
奇兵きへい
 妖派が編成した異形の兵団。構成員のほとんどが侵蝕人。
邪血じゃけつ
 侵蝕人と同義。妖派で使われている呼称。
人為侵蝕じんいしんしょく
 人為的な侵蝕。奇兵の多くはこれにより妖の力を得た。
磁水関所じすいせきしょ
 上野国に存在する関所。鴉天狗に占拠された。
・モウグリ
 かつて大陸内部に存在した大帝国。
無明むみょう
 犬童が所持する妖刀。現実離れした黒さを持つ。

 

*  *  * 見どころ *  *  *

 ~宿敵との対面、妖派の理念~
「これは取引だ。お前がこれを断れば鴉天狗は全滅。引き受けるなら、少なくとも侵蝕人だけは助けてやれる」
 鴉天狗の罪を不問にする代わりに柘榴が要求したのは、影狼の妖派への帰順と、妖派の名誉回復だった。これを呑めば、鴉天狗だけが悪者とされてしまうことは明白。しかし反発する影狼に、柘榴は妖派の理念を語った。
「オレたち妖派は侵蝕人に力と活躍の場を与えることで、彼らの価値を作り出している。それだけじゃない。オレたちは日々、妖の研究を進めている。これを続けていけば本当の意味で侵蝕人を救える日が来るはずだ。この世から侵蝕を無くせる日が――」
 武蔵坊と幸成と三人で交わした破邪の誓い。皮肉なことに、それに一番近しいのは妖派だった。影狼の心は妖派へと傾き始める。

 〜奇兵の誉れ〜
「奇兵に入ったおかげで、オレは生きて行こうって思えるようになった。国のために戦えるし、頑張った分だけ真っ当な評価がもらえる」
 影狼は牢獄から解放され、奇兵の兵舎に住まわされる。そこで出会ったのは、伊織という青年だった。彼は侵蝕人であることに劣等感を抱くどころか、むしろ誇りに思っているようだった。鴉天狗では見られなかったような、生き生きとした侵蝕人の姿を見せつけられ、影狼は遂に妖派への帰順を決めた。

 〜羽貫衆〜
「本当は奇兵の影狼じゃなくて、羽貫衆の影狼になってたかもしれないからな」
 影狼が奇兵として初めて与えられた任務は、かつての同胞――鴉天狗を救うことだった。戦地に赴いた影狼と伊織に、幕府軍総大将は羽貫衆を護衛として引き合わせた。羽貫衆は、逃亡中に出会ったメランの親子の知り合いで、妖派に捕まらなければ影狼は羽貫衆に預けられるはずだった。

 〜決別〜
「お前は今までそいつらがしてきたことを忘れたのか!?」
 鴉天狗が立て籠もっていると思われた関所は、もぬけの殻だった。鵺丸の妖術で偽装していたのである。慌てて追撃する幕府軍だったが、兵力が分散したところで、鴉天狗の奇襲に遭う。巻き込まれた影狼は、羽貫衆の活躍でなんとか切り抜けるが、そこへ武蔵坊が現れる。かつて志を共にした二人は、望まれない形で再開したのだった。
 人の大勢死ぬ戦をやめるよう説得する影狼と、仇敵妖派に降った影狼に失望する武蔵坊。遺恨を残したまま、武蔵坊は自らの放った炎の向こうへと消えていった。

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