【国名】
・パルテミラ帝国
大ローマ帝国の遥か東にある女帝が治める大国。大陸の東西を結ぶ絹の道に跨り、ペルシス人とトラキヤ人を中心とした多様な民族が暮らしている。帝都は東西貿易で大いに栄えたが、百年以上もの間、男人禁制だったことが知られている。そのようになった背景には、男尊女卑だった旧王国時代への反発があったと言われ、ゼノビアの登極までは深刻な男女の分断があった。
元々美男美女が多く、女精、幼精の出現もあって、他国からは美女美童の国として評判だった。テシオンで花開いた幼精文化は周辺諸国にも広く受け入れられ、王朝が変わったあとも長きにわたって親しまれた。
大ローマ帝国に対して優位に戦った数少ない国でもある。霊羊騎兵の騎射による一撃離脱戦法は「パルティアンショット」と呼ばれてローマ人に恐れられた。
・パルミュラ王国
パルテミラの前の時代の王国。マルゲニアの時代から続くトラキヤ人による支配を終わらせ、ペルシス帝国時代の伝統を復活させた。しかし人身御供の伝統はセミラミスの反乱を招き、国を滅ぼすこととなった。諸侯の力が強く、支配は盤石ではなかった。後期は大ローマ帝国ともしばしば対立した。パルテミラに取って代わられたあとも、残存勢力は各地で抵抗を続けた。
・ペルシス帝国
古代のオリエント世界に覇を唱えたペルシス人の国。建国者はペルセウスとされるが、伝説上の人物とみなされている。安定した支配体制により世界帝国として長く君臨し続けたが、アレクセロス大王率いるマルゲニア王国に滅ぼされた。
・アルケサス朝
パルテミラ帝国の領土を引き継いだ王朝の一つ。蒙句麗帝国に滅ぼされた。
・大ローマ帝国
地中海に跨る大帝国。優れた法律制度、軍事力、技術力を持ち、地中海の覇者となったことを機に急速に勢力を伸ばした。魔峰ヴェシモス山の噴火以降は、さらに領土的野心を強めている。鷲獅子騎兵に見られるように、魔物の軍事利用を進めている。
・スパルタクス
かつてはトラキヤを代表する都市国家だった。トラキヤの他の都市国家同様、大ローマ帝国の属州となるが、軍事協力の見返りとして自治権を認められている。徹底した戦士社会であり、スパルタクスの市民は幼い頃から集団生活を強いられ、過酷な軍事訓練を施された。世界最強の重装歩兵が知られている。
・マルゲニア王国
トラキヤ北部の国。アレクセロス大王の時代にペルシス帝国を滅ぼして世界帝国を築き、東方世界にトラキヤ文化をもたらす契機となった。
・シルラ王国
マルゲニアが分裂してできた国の一つ。アレクセロス大王の部下のセリオコスが建国。パルミュラの台頭まではテシオンを支配下に置いていた。
・ナバタイ王国
パルテミラの南方の遊牧民の王国。キュロスが潜伏していた。盗賊稼業や牧畜、隊商貿易で栄えていた。
・ダヌビア王国
トラキヤ系国家の一つ。鉄門、ダヌビウス川などがある。大ローマ帝国と敵対している。
・蒙句麗帝国
パルテミラ帝国があった地よりもさらに東方にある、遊牧民の国。最盛期には世界の四分の一を支配し、当時テシオンを支配していたアルケサス朝をも滅ぼした。テシオン攻囲戦での破壊と殺戮は苛烈を極め、貴重な文化財が多く失われた。
【パルテミラ用語】
・神殿区域
壁で仕切られた王宮の区画。中には王宮の他に神殿や庭園、宮廷図書館などがあった。テシオン市街の中心部にある。
・宮廷図書館
神殿区域の中にある図書館。古代語研究の場として王宮魔術師に利用された他、外国語文献の翻訳や天文観測にも利用された。
・生誕の儀
モーリヤの丘で行われる、新しい命を迎えるための儀式。元々はモーリヤの丘で人身御供となった者の霊を慰めるために始まった。親しい者が三人集まって精霊に祈りを捧げることで、三人のうちのいずれかが幼精か女精の子を受胎する。この現象は『精霊の揺り籠』と呼ばれている。
・霊羊
アシュタウィア山脈周辺に多く生息している、鹿のような動物。馬より速く走ることができる。かつては女子供とともに、儀式で犠牲となった。それゆえか古代語魔法と相性がいい。霊羊騎兵の創設を機に一気に家畜化が進んだ。
・狩猟豹
チーターのこと。地上最速の動物で、雷光騎兵に利用される。走行中に脊椎が大きくうねるため、天才的なバランス感覚がなければ乗りこなせない。古くから狩猟のお供として飼い馴らされることもあったという。
・霊羊騎兵
霊羊を用いた軽騎兵。機動力が最大の武器で、騎兵に対しても一方的に矢を射かけることができる。霊羊に大人の体重を支える力はなく、騎乗には『天使の羽』が必要。そのため霊羊騎兵はほぼ女精のみで構成されている。
・雷光騎兵
狩猟豹に騎乗した騎兵。王宮魔術師、従軍聖歌隊とともに女帝親衛隊を構成する。狩猟豹に騎乗できるのは体格の小さな幼精だけで、さらに霊羊騎兵以上の騎乗技術が求められることから、総勢二百騎の少数精鋭となっている。機動力では地上最速を誇るが体力がなく、戦場で活躍できる局面は限られている。
・重騎兵
人馬とも重装備で固めた騎兵。槍を揃えての突撃は強力で、矢にも耐えるが、機動力は他の騎兵に劣る。重装備で戦うには相応の筋力が求められるため、女戦士を主体としたパルテミラでは数を揃えられていない。
・雷光祭
最速の雷光騎兵を決める祭典。パルテミラ国内で最も大きな行事の一つで、国内外から多くの観客が訪れる。
・美髭将軍
ヴェルダアースの異称。細長く整った口髭は龍の髭とも言われ、一部市民の間では神聖視されている。
・市場
昼間は王宮前広場が、夜は露店通りが賑わっている。
・王宮前広場
王宮の正門前の広場。告示や祝典など、多目的に使われるが、普段は市場として開放され、東西諸国から運ばれた交易品で溢れ返っている。
・酒姫
宴会や酒場で酌をする少年のこと。
・幼精
『精霊の揺り籠』から生まれた第三の性。モーリヤの丘で人身御供となった少年の精霊の移し身と言われ、少年の姿のまま年を取らない。古代語魔法を使うことができる。男人禁制のテシオンにあっても歓迎される存在。
・女精
『精霊の揺り籠』で女の精霊を宿して生まれた者。幼精と同様、古代語魔法が使える。個人差はあるが、多くは大人の姿にまで成長する。
・半幼精
女精と男の間に生まれた男子のこと。後世にはハーフエレノスとも呼ばれる。通常の男より時間は掛かるが、大人の姿にまで成長する。また、中性的な容姿になることが多い。古代語魔法は使えるが、精霊の加護は少なめ。テシオンの男人禁制が解かれてからは、それほど珍しくはなくなった。
ちなみに、同じようにして女子が生まれても、半女精と呼ばれることは少ない。
・幼精文化
テシオンを中心として広がった幼精を愛好する文化のこと。幼精は男のような役割は果たせなかったが、人を癒し、魅了することにおいては女も女精でさえも敵わなかったという。パルテミラの時代から、幼精は「可愛い」の代名詞となったのだ。
・テシオン幼精歌劇団
テシオン劇場を拠点とする歌劇団。団員は幼精のみで構成され、少年役も少女役も、男役も女役も老人役も、すべて幼精が演じる。彼らが演じる大人の男女は、実の大人が演じるのとはまた違った感動を人々に与える。見た目は少年でも、中身は熟練の役者なのである。公演が近い時を除けば練習は自主参加が中心で、歌手や踊り子などを兼業している者も少なくない。
・アミュンタス王立学校
テシオンにある超名門校。マルゲニア王国が分裂してできたシルラ王国が、王の名を冠して建立した学校。ちょうどトラキヤの高度な文化が流入してきた時期でもあり、当初から最先端の教育が施されていた。パルテミラの時代には一般市民も多く通うようになった。十二歳までに一般教養を身につけ、その後三年間は政治、天文、哲学、芸術、武術などそれぞれの適正に合わせて学問を極めていく。
・従軍聖歌隊
歌唱力の高い幼精からなる聖歌隊。女帝親衛隊の一つ。歌による古代語魔法を扱い、主に戦闘前後の士気高揚や心身回復の役割を担う。
・王宮魔術師
国内最高の古代語魔法使いを結集してできた部隊。女帝親衛隊の一つ。他国からは精霊魔術隊とも呼ばれる。魔法の効力を高めるため、モーリヤの霊木からできた杖を装備している。
・古代語魔法
精霊と語らうことで、その力を借りる魔法。精霊の移し身である幼精と女精にしか使えないが、『精霊の揺り籠』に見られるように、モーリヤの丘でなら普通の人でもその恩恵に与ることができる。正確な言語理解のみならず、精霊と心を通わせる感性が求められる。一口に古代語と言っても、言語は多様で、時代や地域による違いも含めればキリがない。しかし裏を返せば無限の可能性を秘めているということでもある。言霊の組み合わせ次第で、思いがけない強力な魔法が出現するかもしれない。
・気功
東方の国に古くから伝わる修行法。特殊な呼吸法により、心身の機能を高めることができると言われている。
・アシュタウィアの夜明け
パルテミラ国旗の紋章の呼び名。光を放つ太陽が描かれている。
・『英雄王ビルガメス』
世界最古の物語作品の一つ。作者も成立時期も分かっていないが、時代を超えて多くの人々に読み継がれ、親しまれてきた。ジェロブも愛読していた。
・『ロダとユーリエ』
史上最高の名作と讃えられた戯曲作品。互いに憎しみ合う二つの氏族、それぞれに生まれた男女が紡ぐ、禁断の恋の物語。テシオン劇場でも上演され、悲劇的な結末が観客の心を打った。
【ローマ用語】
・プリニウス暦
プリニウスの生年を元年とした暦。
・投槍
ローマ軍が使用する投擲用の槍。盾から引き抜けなくするため、敵に再利用されないために、穂が細長く曲がりやすいように設計されている。
・大盾
ローマ軍重装歩兵が装備する四角い盾。目玉のような紋様が敵を威圧する。
・亀甲陣
密集隊形で大盾を前方、上方に掲げる歩兵戦術。騎兵の突撃や矢に強い。
・百人隊長
名前の通り百人隊を指揮する。ローマ軍の骨格をなす重要な役職である。
・鷲獅子騎兵
空飛ぶ騎兵。投槍を装備し、敵の反撃が届かない空中から攻撃する。元々は鷲獅子に騎乗させる予定だったが、上手く制御できなかったため断念。馬と鷲獅子から生まれた鷲馬で代用して完成した。名前はその名残り。数を揃えることは難しいが、地上からの妨害を一切受けないことから、補給部隊の襲撃、指揮官の狙撃に絶大な威力を発揮する。
【トラキヤ用語】
・総合格闘技
トラキヤで古くから行われていた格闘技。勝つためならほとんどどのような方法も許された。特にスパルタクスでは軍事訓練で重視されたが、死人が出ることもしばしばだったという。
・トラキヤ語
トラキヤ地域で使われる言語。アレクセロス大王の東方遠征によってパルテミラの地域でも使われるようになった。
・ディギトゥス
トラキヤ語圏で使われる長さの単位。親指以外の指一本の幅に由来する。約一センチメートル。
・スタディオン
トラキヤ語圏で使われる距離の単位。複数形はスタディア。約百八十メートル。
・パラサング
トラキヤ語圏で使われる距離の単位。三十スタディアに相当する。
・吟遊詩人
詩を作り、各地を旅しながら歌った人々。
・ロパドテマコセラ〜中略〜リュゴーン
魚とサメとシルフィウムとカニとエビとハトとニワトリとカイツブリとムストとピクルスのごった混ぜフリカッセのこと。アリストファネスによる喜劇作品に登場する料理。世界最長の単語として知られる。
【その他一般語句】
・ラーレ
チューリップのこと。
・麦酒
・葡萄酒
・穹窿
・露台
・翠玉
・駱駝
・隊商
・胡狼
【地名】
・アルペン山脈
大ローマ帝国の本土となる半島と大陸の、繋ぎ目に横たわる大山脈。多くの河川の水源にもなっている。
・地中海
二つの大陸に南北を挟まれた海域。沿岸地域は大ローマ帝国がすべて支配下に収めている。海上貿易が盛んで、古くはトラキヤをはじめ多くの文明の揺籃となっていた。
・トラキヤ
大ローマ帝国の東側にある半島とその周辺地域を指す。大ローマ帝国に征服される以前は、多くの都市国家が栄えていた。豊かな自然と暮らしの中で、優れた芸術、哲学、科学が花開き、西は大ローマ帝国から、東はパルテミラ帝国まで、世界の文明の発展に大きな影響を与えた。
・絹の道
大陸の東西を結ぶ歴史的交易路。東方からの主な交易品が絹だったことに由来する。
・エウフラーテス川
テシオンの南を流れる大河。この川とティグラス川に挟まれた地域は「肥沃な三日月地帯」と呼ばれ、古代オリエント文明の揺籃となった。
・ティグラス川
テシオンのすぐ近くを流れる大河。
・オリエント文明
ティグラス川、エウフラーテス川周辺で興った世界最古の文明。
・カルデア
パルテミラ西部にある荒野。大ローマ帝国とパルテミラ帝国の最初の決戦が行われた。
・セルキヤ
エウフラーテス川沿いにある都市。シルラ王国の時代には王都に定められたこともある。近郊では、パルミュラ滅亡を決定づける戦いと、大ローマ帝国とパルテミラ帝国の二度目の決戦が行われた。
・テシオン
パルテミラの帝都。建国から百年以上もの間、男人禁制だった。ローマと並んで、当時としては最も先進的な都市の一つだったとされる。
・ヴェシモス山
大ローマ帝国本土にある魔峰。大都市ポンペイを呑み込んだ大噴火で知られる。その火口は魔界に通じるとも言われ、噴火後は周辺地域で魔物が跋扈するようになった。
・アシュタウィア山脈
テシオンの東に連なる山脈。万年雪と太陽が生み出す景色は神秘的で、古くから神聖な儀式の場とされてきた。パルテミラの国旗にも描かれている。
・モーリヤの丘
別名嘆きの丘。アシュタウィア山脈にある。ペルシス帝国の時代には儀式用の都市が築かれ、丘の上に巨大な神殿があった。戦死者のための天国に通じると古くから信じられ、国中から集められた美女美童がここで人身御供とされた。いつしか犠牲となった者たちの霊が力を持つようになり、奇跡を起こすようになった。それが古代語魔法である。
・ヒエラポリス
ペルシス帝国の首都の一つ。「神聖な都市」の意味を持つ。モーリヤの丘を中心として作られ、専ら天文観測や祭儀のために利用された。
・最果ての海
大陸が切れた先にあると信じられていた、終わりのない海。
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