第五章 幕府編

 鴉天狗が越後に亡命した矢先――大名義秋が急死した。それから間もなくして越後国は後継者を巡り内乱状態となる。当初は元殲鬼隊の豪傑二人を擁する義氏派が優勢だったが、鴉天狗が義弘派として参戦したことで形勢逆転。義弘派は越後の本城の奪取に成功し、立役者となった鴉天狗は侵蝕人の保護と相応の身分を約束された。
 羽貫衆の一員となった影狼は、鴉天狗の汚名を返上すべく、東国同盟の会合へ参加することとなった。しかし、東国同盟に敵する九鬼の血を引くことを明かされ、人質にされそうになる。その窮地を救ったのは、盟主を補佐する高見という男だった。会合後、高見は影狼に、九鬼と東国同盟の仲立ちとなること、さらに九鬼の旧領志摩を攻略することを提案。影狼は東国同盟での立場を強めるため、この提案を呑んだ。
 そして翌年、柳斎のもとで修行を積んだ影狼は、九鬼の家臣に迎えられ、任務へと向かうのであった――

 

☆登場人物・用語
【新登場人物】
吉良きら義弘よしひろ
 大名義秋の養子。軍神長尾影虎の一族出身。後継者争いに勝利するため、鴉天狗を受け入れる。
吉良きら義氏よしうじ
 大名義秋の養子。義秋の甥。信繁、晴家ら有力な家臣から支持を得ている。
片桐かたぎり且宗かつむね
 鴉天狗幹部。元殲鬼隊。自然な侵蝕により酒吞童子の能力を獲得している。
みなもと晴明はるあき
 幸成の父。殲鬼隊の活動中、侵蝕を理由に抹殺される。酒吞童子討伐任務にも参加していた。
近藤こんどう隆介りゅうすけ隼人はやと
 東国同盟の盟主。上野国大名。殲鬼隊の一番隊を率いていた。利益のためならば手段を問わない暴君。
高見たかみ遊山ゆさん
 近藤の腹心。幕府四天王。ヒューゴに侵蝕を調査させていた。人の心を巧みに操る策略家。
仁科にしな基次もとつぐ
 信濃松平家の家臣。兼定の代理で東国同盟の会合に出席していた。
九鬼くき影虎かげとら
 影狼の父。殲鬼隊の任期中に本家が滅ばされ、その後駿河国で独立した。
喜利きり万次郎まんじろう
 九鬼家家臣。影狼を迎えに来た異人風の男。
大隈おおくま与一郎よいちろう
 皇国の建国者にして最高指導者。皇帝からの信頼が厚い。
菊之助きくのすけ
 鴉天狗の侵蝕人。影狼の数少ない友であったが、侵蝕で亡くなったとされている。
*ノブナガ
 鴉天狗にいた野良猫。菊之助に懐いていた。彼の死後、妖派の実験により侵蝕獣となり、息絶えた。
九玄くげん
 妖派八幡支所の代表者。ノブナガを操り、鴉天狗の集落を襲わせた。その後の事件で鵺丸に殺された。

【新用語】
東国十一国同盟とうごくじゅういっこくどうめい
 将軍家が絶えた後、大名たちが皇国に対抗すべく結成した同盟。近藤隆介を盟主とする。
血舞酔ちまよい
 片桐の妖刀。穢れた血を操る能力を持つ。磁力を生み出すことも可能。
・破竹ノ禍戈はちくのまがぼこ
 才蔵の妖槍。女竹が侵蝕により能力を獲得したもの。笹を操り、幻術を使うこともできる。
鬼提灯おにぢょうちん
 九玄の妖刀。鬼火を操り、妖怪や侵蝕獣を操作することができる。

 邪気と対になる霊的な力。邪気と同じく、術を生み出す素になると考えられている。
気功きこう
 気を自在に操る能力。修行により体得可能で、妖刀が自在に扱える他、身体能力を強化する効果もある。
箕輪みのわ
 上野国本城の馬橋城がある。東国同盟の事実上の本拠地。
馬橋城まばしじょう
 近藤隆介の居城。日ノ本三大河川の一つである利流根川を背に築かれた。
浦嘉うらが
 相模国の港町。メラン諸島との交易にも使われている模様。
さかい
 皇国の本拠地。港付近には異国風の街並みが広がる。御所やプロセイン公使館もある。
御守番おもりばん
 鴉天狗の構成員のうち、侵蝕人の管理、世話をする立場の者。
鴉天狗流小太刀術からすてんぐりゅうこだちじゅつ 
 御守番の多くが使う剣術。鵺丸が編み出したもので、敵を傷付けずに制圧することを目的とする。

 

*  *  * 見どころ *  *  *

 ~越後の内乱、鴉天狗の活躍~
「私はあなた方を信頼しています。その上であなた方の力を見込んで、禁を犯してこの場にいるのです」
 鴉天狗が亡命した越後国では、大名が急死し、後継者を巡って一触即発の状態となっていた。そんな最中、鴉天狗も後継者候補の義弘から参戦の要請を受ける。それからほどなくして内乱が勃発。鴉天狗の参戦により、計七人の元殲鬼隊員が絡む大激戦となった。

 ~東国同盟会合、妖派との論争~
「不公平がどうしたと……? 仮にその小僧の言ったことが真実だったとして、妖派を罰することになんの意味がある? 東国同盟にとってなに一ついいことがないではないか」
 鴉天狗の汚名を返上すべく、影狼は笹暮に連れられて、幕府――もとい東国同盟の会合に出ることとなった。笹暮の弁護により、鴉天狗に同情する者も出始めるが、盟主近藤の粗暴な一言で議論が中断される。そこへさらに、影狼が九鬼の血を引くことを柘榴が暴露し、影狼は窮地に立たされる。
 あわや人質というところを救ったのは、近藤の腹心――高見遊山であった。彼はメランの親子に侵蝕の調査をさせていた人物でもある。会合後、影狼は高見から提案を受け、九鬼家の元へ向かうこととなった。

 ~気功と海猫~
「オレの感覚に狂いがなければ、海猫は今、邪気をまったく使わずに術を発動しているということになる」
 九鬼の使者が来るまでの間、影狼は柳斎から妖刀術の指導を受けることになった。影狼には幸成から譲り受けた海猫があったが、どういうことか、他の妖刀と同じ方法では術が使えなかった。そんな海猫を柳斎は自在に操ってみせ、邪気とは別のものが術を生み出しているのではないかと推測。実は柳斎の刀も海猫と同様の性質を持っていて、気功の修行をして初めて術が使えるようになったという。こうして、影狼も気功の修行をすることとなった。

 ~まだ見ぬ強敵たち~
「あの山に秘められた力は計り知れない。そして、我が帝国の経験と技術があれば、その力を有効に活用できる。是非とも、譲っていただきたい」
 伽羅倶利峠では大敗を喫したが、短期間のうちに日ノ本の大半を支配下に収めた皇国には、優れた人材が溢れている。建国者の大隈与一郎。妖術を使う謎の男――柴田海八。古より日ノ本の王として君臨し続ける皇帝一族。そしてプロセイン王国の面々。彼らが今後どんな活躍を見せてくれるのかに注目だ。

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